卸売業向けインストラクションコース

卸売業の情報システム − 先進情報システム運営の前提条件編

第34回「運用体制(その1)」

消費財卸売業のシステムはいままでになく高度で複雑な要件を処理しなければならなくなり、情報システム部門はいわば先進情報システムを構築する力量を備えなければなりません。第2部では先進情報システム運営に必要な体制・運用マニュアル・メンテナンスについてカストプラス流にアレンジしてご紹介します。

1.運用体制
情報システムや物流システムを構築すると、他社と比較して(ほとんどシステム機能や性能は同じであるにも関わらず)結果が全く異なってしまうことがあります。その根本原因が「運用の質」であることが多いのです。「システムとしては完成したが、運用がうまくいかず思うような成果が上がらなかった。」という事例は最近10年で増加しているように見えます。
運用の質をしっかりと維持・向上するための情報システムに関する運用の体制について考えてみます。

(1)情報システム部門の組織体制(その1)
いままでの卸売業のシステム化といえば、訳あり・不明・複雑・未解決でも良しとするパラダイムで諸先輩の指摘する要件を汲み取ることが中心で進められてきました。リベートや粗利のことはいくら聴いてもはっきりとは定義できなかったと思います。さらに売価もバリエーション多数、仕入価も何が基準なのか全くわからなくても、システムだけは作らなければなりません。基本的なシステムの形の習得こそが(社内外から認められる)情報システム部門の登竜門でした。これが30年も経てば劇的に改善されるに違いないと期待する声がありましたが、40年経っても基本は何も変わっていません。価格維持制度や販社制度などは少し変わりましたが、単価や利益に関することはシンプルを目指す気持ちとは裏腹に複雑さが残ったままです。
しかしDX(デジタル・トランスフォーメーション)、もっと前には2007年問題が叫ばれ情報システム部門に対する期待や、ミッションそのものが変わってきつつあります。それに対応するためにシステム化に際して組織改革を行ったり、運用作業手順を変える必要もでてきます。特に組織改革を必要とする取り組みには企業のトップの理解が不可欠です。

まず、基本的な組織体制の形を考えます。下図を参照ください。

情報システム推進体制
この図の特徴的なところは企画・運用・開発の3本柱で構成されているということでしょう。それぞれに代表的な役割をピンクで示しました。システム開発であれば要件管理・開発管理・調査研究・性能分析ということになります。開発関係の体制等々は第1部で述べてきましたので、ここでは企画と運用を中心に解説していきます。

@システム企画の変化
基幹システムの再構築を求められることが多くなりましたが、実際にどのようなシステムを作れば再構築となるのか?それはとても難しい問題になっています。例えば、自社のシステムにおいて見た目におかしいことは深い理由でもあるのだろうか?と考えてしまうことがあるでしょう。見た目におかしいこととは理由を調べて、改めることが良いと考えられます。しかしその理由が調べきれないと前に進まない。他に自社のシステムにおいてとても難しい仕組みがあって、しかしそれはほとんど使われていないなどということがあります。もっと言えば処理の中に考えられないような例外対応のロジックが仕込まれているなどということもあります。言わば“昔の傷跡”です。
このようなほぼ使われていない見た目におかしな仕組み、不必要に難しい仕組み、考えられないような対応ロジックは卸売業に特に多く、昭和の頃に作られたのでしょう。あのころはよほどの訳知りの人たちの説明がなければ理解することができなかったようなことは、秘密でも良しとされていました。その裏には特殊な小売企業との関係やメーカーとの関係、労働内容との折り合いをつける必要性など、あまり表沙汰にして得をしない要件が無数にありました。それから数十年経ち、社会は複雑かつ高度に進化しました。それと同時に曖昧かつ怪奇な商習慣は整理淘汰されてきました。またこれらのおかしな不必要な複雑な仕組みが間違いだと言えるだけの当事者能力を持つ諸先輩が引退され、確認のしようがなくなってしまったのです。これは経営的にはフェイタルなエラーですが、それを責めても答は得られないので、先に進むことにしましょう。(流通業界の曖昧かつ怪奇な商習慣は減ってきましたが、それは単純で低レベルになったということではありませんので誤解なきように)
いまどきの流通関係者は、見た目におかしいことはストレートにおかしいと言ってきます。例えば返品の問題を取り上げてみましょう。受ける卸売業からすれば返品を前提にしてるのではないか?とさえ思えるほど簡単に返品を受けてくる営業マンがいて、作業もシステムも手間がかかっています。実際欧米では我が国のように返品を気軽に返すことはありません。なぜこんなに返してくるのか?よく調べていただきたいのですが、おそらく原因は小売業バイヤーの仕入れすぎと結論づけたい流れになりますが、よく見るとメーカーの売り過ぎや卸売業セールスの「足りないと困るだろうから」のような保険をかける気持ちがいくつも重なり合って、多く納品し(無事に目的の店頭販売が完了したその良好な結果として)返品に結びついていることがわかると思います。すると逆に保険をかけずにバイヤーの要求100%だけを用意した特売を調べると店頭欠品が多く発生していたりします。余剰も過少も両方あるのが実態だととわかって受注・納品計画のコミットメントを共有する方法があれば改善できるかもしれないと思いついたりします。
基幹システムの再構築は改善すべき方向性が見定められるものを念入りにおこない、方向性が捉えきれない場合には業界全体の動向やパートナーやコンサルタントの意見を参考にしてみるといいでしょう。
そもそものお話になりますが、基幹システムの方向性がわからない理由は、各業界単位の話し合いが行われなくなったことが原因の一つでしょう。近年も少しは情報交換する機会がありますが、そこに出向かない企業の割合が高く、ほんとうの意味の業界の話し合いになりにくい状態であるといえましょう。また情報システムの要員が社内のおもだった部署で実務の経験を積むということもされなくなってしまいました。数十年前に出張禁止や研究会等への参加を控えることがはじまり、長い不況がさらにこれを加速していると考えられます。要員育成は自社でおこなうことにした決断は良いとしても、その結果の総括が行われていないことが問題を大きくしてしまったようです。いまでは厳しい教育・訓練・労働は、あまり褒められたことではなくなりました。むしろ働き方を改革して“厳しい”ことは忌避して誰でも機会を与えてという流れです。これは正しいのですが、数年に一度はその結果の総括を行わなければなりません。情報システム要員の仕事が楽になったわけではなく厳しく鍛えられなくても昔よりも良い結果を出さなければならないのです。したがって何も反省しないのですから次の改革実現につながるわけがないでしょう。働き方改革は表面は良いことなのですが、IT業者も同様に厳しい物件の修羅場をくぐった人がもういなくなります。また10年間で経験できる厳しい物件の数は昔と異なり、いまは10分の1ほどしか得られないのです。何も無理して修羅場をくぐらないくてもよいのですが、通常レベルの経験値が上がらなすぎています。物件数が少なければ、他者が経験した成功プロジェクトや失敗プロジェクトの結果検証を徹底的に行いそこから学ぶといった努力が必要になります。ただし特定の固有業種の要件をまとめるには、やはり実績数が多く必要となります。
以上、システム企画について大きく変化してきたことを説明してきました。企画立案が難しくなってきたからといって、社内外から出されたシステム対応のバックログをたくさん貯めてしまっても(作業は充足しますが)新しいシステムを構築し直す道は、より遠回りになりますね。要員体制と企画立案がセットであるテーマだと理解していただけたと思います。

つづく(次回は第2部 1.運用体制 (1)情報システム部門の組織体制 Aシステム企画の出しづらさ です)

元のページにもどる
トップページにもどる

カストプラスへメールを送ります

All rights reserved,Copyright2021Custplus Inc.