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カストプラス コメント − 平成時代の30年間を振り返る

第3回「平成時代を振り返ってこれからの流通を考える」
@平成時代前半
いま空前のAIブームですが、昭和時代が終わる頃にもAIのブームが到来していました。その前にも一度AIがブームになったそうです。その頃は物事を考えてこうなるとか、パズルや迷路をといたりなど推論といわれる機能がコンピュータで実現できるというものでした。これを第1次AIブーム【1950年〜1970年くらい】とすると、第2次AIブームは1980年〜1990年くらいのはやりでした。知識を与えたり、学習をさせることであたかも専門家や職人の領域をコンピュータに肩代わりさせようとしていたと思います。結局知識ベース;ナリッジベースが確立しないと本当の実用化は遠いと評価されブームは去ったように思います。その頃筆者もAIの基礎的な教育は受けましたので、多少のことは理解していたつもりでしたが、実務上それを使うことはありませんでした。
平成時代に入り、バブルの崩壊後にはしばらくシステム化の熱が冷めた時期が続いてしまったので、30年以上間をあけて第3次AIブームが訪れたことになります。当然今の時代ですから、第2次ブームに比べるとコンピュータの処理速度が飛躍的に上がりUI(ユーザ・インターフェース)は五感に訴える相当良いものができると期待されています。今まだわずかに残されている情報システムの職人;IoTマイスターの知識ベースを構築し、様々な業務のマイスターにも協力してもらってAIエンジンに知識を植え付けてほしいと思っています。そういったものの新世代の方々には興味が無いかもしれませんね。
しかし今の時代に出てくるものは、特に流通関係では「それはプログラムで普通に組めるのではないか?」、「マスタ設定でできるのではないか?」という感じであり、AI風の加工がしてあっても、人工知能を感じない提案ばかりです。今後に期待するところです。

本題の平成時代前半はAIの第2次ブームが知識ベースを得ることができずにあたかも失敗プロジェクトのように消え去ったシーンから始まります。平成元年から2年ころには経済的な変動がなければ、情報システムによる業務の最適化時代が到来するシナリオだったと思っています。また、戦略的に情報システムを活用したり、自動化についても今以上に期待されていたと記憶しています。その波は必ずや各産業の熟達に加え新産業の立ち上げ、成長が予想されていました。実際は不況に陥ったため平成4年ころからは各産業の進化のシナリオが崩れ、そのかわりに資格制度が多数示されシステム監査なども含めた「斜め後ろ向きのベクトル」が流行し始めてしまったのです(資格やシステム監査は重要で不必要といってはいません)。他方で、企業は大きくなることが成功の証と言わんばかりに「成長が困難なら合併で解決する」大企業化(中には膨張した企業もありましたが)をはかるようになりました。シナジー効果により不況を乗り切ることが至上命題になったのです。
しかし大企業になった企業がおかしくなり始めます。大企業になれたという安心感からか特に卸売業では経営方針が消極的であったり、何よりも良くなかった例では経営方針が不明確なまま放置され、社員や取引先に明示されない期間が10年以上続いたことです。老練な企業経営者が引退し、若手や3代目、4代目社長が就任すると、本音をいうと「どうして良いかわからない」、「どう動いても悪い方にしか行かない気がする」などという状態に陥っていたのです。これは能力の問題ではなく、世の中がカオスだったからだと思われます。
平成10年ころにもなると、世の中の動きに体を揺さぶられ続けることにすっかり慣れてしまった企業も多数現れます。羅針盤のない航海のようでした。不況はそれでも待ってくれません。多くの中小卸売業は出荷検品工程を抜くとか、売掛金のダブルチェックをやめるとか、受領印をもらわずペーパーレス(電子帳簿保存法などの正式な法令に従っていない)に変えるとし伝票発行すらやめてしまうなど、人件費や諸経費を節約し始めました。そうでもしないとこの長期不況を乗り切れないと判断したからです。もちろんしっかりやった企業も存在しますが、「やり方がわからない」、「改善の仕方を知らない」ことが大きく影響していました。
平成に入る前にベストプラクティスの鉄板技がいくつも知れ渡っていたと筆者は思っていましたが、実際はほとんどの企業がそれを知る前に不況になってしまい、「いまさら投資なんてできない」状態まで行ってしまいした。そんな中で数多くのセミナー・講演会に出た経験から不思議な傾向に気づきました。「不景気なのに勉強しない」ということです。お金をかけなくてもできることはたくさんあります。数十名の卸売業経営者にセミナーをやってきましたが、ある時「いわれたとおり債権管理の工夫をしてみた」という社長さんらが、ちょうど1年前のセミナーの題材について嬉しそうに報告していただいたことがありました。「効果絶大で助かった」とのことでした。不景気だからお金をかけずにちょっと勉強すればその恩恵でうまくいくという思いが通じたということでしょう。それでも全体的には勉強しない研究しない傾向は続きます。
少数の企業で構成される卸売業業界がいくつかなくなりました。残念です。それでも残った皆さんでがんばりましょう!といっても、まだやっと平成15年です。
その頃、プロの技とはいえない企画がまかり通り始め、「値引きに次ぐ値引き」時代に入りました。経費節減効果も値引きのためにに消えました。

平成前期の変化

A平成時代後半
平成16年ころには、多くの流通企業が「なにか突破口を開く方法はないか?」という模索をはじめました。また、企画や商談、発注や物流、商品開発やマーケティングなどの各分野で決定打がほしいと望まれました。これが劇的な回復のスタート地点になればという気持ちで祈りました。この影響かどうかまでは詳細に振り返ることはできていませんが、「仕組・習慣を壊してから新しく作る・定める」という動きが散見されました。本来この頃にはベストプラクティスを知る方々も多く、数々の賢者がいたはずです。その方々が崩壊を止められなくても破壊は止められたのではないかと思っています。一方、小売業のバイイングパワーがベストプラクティスを無視し、標準を捻じ曲げ、個社のベストで昭和の中期まで先祖返りさせても気づかない動きを見せ始めていました。それは平成20年頃のことです。具体的には書けませんがさまざまな事件がありました。もっとも破壊的だったのは「値引きに次ぐ値引き」の要請であり、もう一つは「この商品は売れないからもっと売れる他の商品は?」という要望でした。かくして物流センターは不良在庫で溢れ、マスタ件数は空前の伸びで増えていきました。
平成中期から不況対応と称して、多くの流通企業において「出張禁止」、「会合参加禁止」、「研究会・勉強会なんてもってのほか!」という節約令が出されました。セミナーに出るのがやっとという企業が大半でした。物流センターでのガムテープを買ってくれないなどということもありました。
値引きとムダの大量発生と節約で流通業各社の社員は身動きが取れなくなっていきました。動けず、情報も伝わらず、ベストプラクティスも徐々に忘れ去られるのに要した時間は10年で十分でした。平成時代の末期には30年以上前の解決案を自分で考案しましたというようなコンサルが多数現れ、もはや雇って得するコンサルやベテランSEは忌避対象に成り下がりました。
そうした状況下でも世の中は変化し、中には進化したことも多々あり、流通各企業はその対応を迫られます。大手の小売業におけるキャッシュレス対応は10年ほどでやっつけました。今度は無人チェックアウトです。また、一部の卸売業では多数の商品管理と、高精度な物流作業を20年以上かけて実現してきました。まだまだ完了ではありませんが、次は高効率な省人化物流です。大手・中堅のメーカーは正確で効果の高いマーケティングを少しずつですが進化させてきました。広告宣伝の直接作用としての効果が25年ほど前から致命的に薄らいでいく中、今度は消費者との直接接点の開拓と高精度な需要予測が求められています。
苦しい流通企業の時代背景をよそにネット販売が急速に伸び、その後のマーケットの予想をぐらつかせています。その変化に対して生活者も進化し続けています。購買技術の熟達度が飛躍的に向上しているのです。
厳しい選球眼を持った生活者が子ども騙しのプロモーションやレコメンデーションの変化球に引っかかるはずもありません。細かくチェックしギリギリのお得なお買い物を目指します。その結果だけとはいい切れませんが、トラックドライバー不足、店員の過重労働、物流センターの赤字操業などの現象を引き起こしています。生活者が悪いのではなく、20〜30年前にできたこと(物流作業の半自動化、無人POS化、簡易な予測と供給、キャッシュレス決済のフル対応、個人別に近いレコメンデーション、在庫の最適化、新商品の出し過ぎ防止、返品抑制、商品ロスの削減、、、)をやってこなかった私達のエラー;失策が最も大きい原因でしょう。

そして、これからの新時代に進みます。大衆がいなくなったとして小衆化したといわれて30年、いまや細衆・微衆がSNSで幅を利かせる世の中になり、ほんの3人が気に入らなかった商品に対する(使い方を間違えているだけの)酷評が新商品をぶっ潰すことがあるのです。流通企業は生活者とつながることで情報を正確に伝えることも、ただしく消費してもらうことも手厚くサポートすべき時代に突入したのです。この変化に対応すべきとした時、いままで大事にしてきたシステムやツールの標準・ベストプラクティスを刷新する必要性を産んでいます。(詳細を略します)
新しい標準を作る時期が来ていますが、この数年動きが鈍いと思われます。鈍いとはいえ、新しい時代への移行が急速に求められていることは確かなのです。しかしその移行に懸念があります。動きが鈍いと申し上げた要因の一つに、いまある標準をあまりにも大切にしすぎて、未来からの視点で見てみると大変不都合な足かせのような存在になっていることが多々あるということです。物流ラベルやEDIの古い標準をかたくなに守る現状バイアスは世代を問わず強く働きますが、これを突破してこそ次の令和時代だと思います。流通業はきっと突破して見せてくれると思います。そのためにはAIの本格活用や自動化などについて本気で取り組む必要があるでしょう。

平成後期令和元年までの変化

皆様にとりまして、新しい時代が良き時代になりますように、心より祈念いたします。

次回の予定は未定です


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